ReuterJapanNews’s Dialy

バンコク駐在記者。ヤンゴンからチン州ミンダットに転戦。国際NGOと連携して国軍の攻撃から逃れる難民を救おうと頑張っています。

新型コロナ 欧州株が強い感染力を獲得 米研究所が発表

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新型コロナ欧州株 感染力が強い変異を獲得 米研究所

2020/05/07 10:18


    米ロスアラモス国立研究所は4月29日、新型コロナウィルスで感染力と致死率が高い欧州株(ヨーロッパと米国で爆発的に流行)の実態に迫る研究論文を発表した。

プリプリント版で査読前の段階だが、確度が高いため公表した。本誌が武漢株と欧州株が決定的に破壊力が異なることを世界で初めて発表して、2カ月が経過。多くの研究が理論を補強してくれる。

 今回発表された論文によると、スパイクタンパク質における14の変異を特定。その中の1つの変異株(D614G、通称-欧州株)が2月初めから欧州で感染拡大し、世界中に広がったという。

論文は「D614Gの分布は驚くべき速さで増しており、もとの武漢株と比較してよりスピーディーに拡散できる適応力、つまり優位性を獲得した」と分析。

 著者のベティ・コーバー氏は「新興ウイルスが非常に早く広がり、3月にはパンデミックの支配的な株になった。この変異株が流行し始めると、それまでにその地域で広がっていた株に取って代わる。D614Gの感染力は強い」という。

コロナウイルスは表面に他のウイルスとは異なる「王冠(コロナ)」のような突起(スパイク)を持つ。この突起はスパイクタンパク質から成り、標的となる細胞表面の受容体(レセプター)に結合し、細胞への侵入を容易にしてしまう。


新型コロナウイルスのスパイクタンパク質はヒトの上気道や肺、腸などの上皮細胞表面にある酵素ACE2に着床。今回の研究論文はそのスパイクタンパク質の変異をゲノム情報から解析した。

ロスアラモス国立研究所は世界中の患者6346人から採取された新型コロナウイルスのゲノム情報を解析。その結果、スパイクタンパク質の14の変異を特定し、欧州で被害を広げたD614Gが他の地域でも最も優位的な変異株になっていた。


 新型コロナウイルスの変異株が非常に急速に出現して、感染力が強いため優位的に広がったことを示唆している。査読前論文なのでスパイクタンパク質の変異が感染力や病原性の違いにどのような影響を与えるのかまだ公表していない。

スパイクタンパク質はワクチンの重要なターゲットであるため、早い変異はワクチン開発にも大きな影響を与えます。欧州株に感染した患者はウイルス量が多いようですが、入院率で見た場合、武漢株と欧州株には大きな差がなかったようです。

しかし武漢株に感染して抗体ができたとしても欧州株に感染するかもしれない。流行の主流となった武漢株(オレンジ色)と欧州株(青色)の流行を観察したのが下のグラフ。



ロスアラモス国立研究所の査読前論文より


日本はもう少しで欧州株の流行をシャットアウトすることができかも知れない。


 既報発表されている主な研究論文


2月21日「新型コロナウイルスに5つのグループ」

中国科学院西双版納(シーサンパンナ)熱帯植物園の研究者、郁文彬(Wen-Bin Yu)氏らの 研究班がグローバルイニシアチブ(GISAID)に登録された93のゲノム情報を分析し「ゲノム情報に基づく新型コロナウイルスの進化と感染の解析」という論文を発表。

郁文彬氏らの論文より
ChinaXivに査読前論文として掲載され、正式受理は4月27日。それによると58のハプロタイプ(半数体の遺伝子型、塩基の組み合わせ)が確認され、5つのグループに分類できたという。


上のウイルスの家系図系統樹)にあるH13やH38が新型コロナウイルスの先祖ハプロタイプとみられ、後に中継ぎハプロタイプのH3からH1が枝分かれした。

塩基の数も2万9782個から2万9903個とばらつきがあるが、塩基の一つ一つは「文字」のようなもので、この組み合わせがタンパク質を構成するアミノ酸を作り出す。

日本の国立感染症研究所(感染研)によると、

ウイルスが増殖する時、遺伝情報をコピーしますが、この時、文字(塩基)を写し間違えてしまうことがあります。これが変異です。新型コロナウイルスには、こうしたミスプリを見つけて文字を切り取って正しい文字に置き換える校正機能(Viral Proofreader・NSP14)が備わっている。

しかし、ミスプリントは完全には防げない。文字(塩基)が1つだけ入れ替わっても作られるアミノ酸が同じ場合、構成されるタンパク質は変わらない。

ウイルスにとってミスプリはサバイバルのために欠かせない現象。生存していくためには環境に適応できるようアミノ酸の配列を変える必要がある。たとえば58のハプロタイプや5つのグループがあったとしても宿主の免疫力や環境によって淘汰され、消滅を免れるのはその一部。


3月3日

新型コロナウイルスにL型とS型

北京大学のXiaolu Tang氏らの研究班が「新型コロナウイルスの起源と継続する進化」という論文をオックスフォード・アカデミックのナショナル・サイエンス・レビューに発表しています。

新型コロナウイルスのゲノム情報はコウモリや、ウロコで覆われた希少な哺乳類センザンコウを宿主とするウイルスに近いことを指摘。新型コロナウイルスの2つの主要なタイプであるL型とS型に進化しており、L型が7割以下、先祖に近いS型は3割以下で、L型の方が普及していると分析しました。

当初、論文の中で、L型が普及していることから 「L型の方が、感染力が強い可能性がある」と指摘していましたが、誤解を招くという批判を受け「(S型より出現の)頻度が高い」と修正しました。
4月8日「新型コロナウイルスにA、B、Cの3タイプ。誕生は昨年9月13日~12月7日」

ケンブリッジ大学のピーター・フォスター博士らの研究チームは米科学アカデミー紀要に掲載された論文などで「ウイルスは3つに大別でき、コウモリから人間に感染したのは9月13日から12月7日の間」との見方を示しました。
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GISAIDで共有されている160人分の新型コロナウイルスのゲノムを遺伝的ネットワーク手法で分析したところ3つの型に大別できたそうです。

(A型)アウトブレイクの根源。中国雲南省のコウモリやセンザンコウから検出されたウイルスに最も近い。今回のパンデミックのエピセンター(発生源)とされる中国湖北省武漢市でも見つかったが、武漢市で流行したのはB型。アメリカやオーストラリアの患者からも派生したA型が見つかる。

(B型)A型から変異。武漢市を中心に中国や近隣諸国に蔓延。「B型は免疫学的または環境的に東アジアの人口の大部分に適応する可能性がある」(フォスター博士)。

(C型)B型から変異。イタリア、フランス、スウェーデン、イギリスの初期の患者にみられる主要な欧州型。初期の中国本土のサンプルからは見つからなかったが、シンガポール、香港、韓国では検出されている。

フォスター博士らは解析する新型コロナウイルスのゲノムを1001人分に広げたところ、変異する速度などから「95%の確率でコウモリから人間に感染したのは9月13日から12月7日の間とみられる」と話しています。

4月14日「アイスランドで流行する7つのハプロタイプ

アイスランドで陽性と確認された1221人のウイルスのゲノム情報を解析した結果、大まかに分けて7つのハプロタイプが流行していることが判明。
アイスランドの研究論文より
アイスランドの研究論文より
4月14日「感染力も毒性も突然変異する新型コロナ『強毒種は270倍のウイルス量』中国の研究」

中国・浙江大学の研究班が査読前の論文で、浙江省杭州市で1月22日~2月24日に無作為に選ばれた患者11人から取り出した新型コロナウイルスをサル由来のベロ細胞に感染させ、分析した結果を報告。

それによると、33を超える変異を確認。そのうち19は全く新しいものでした。感染時の宿主細胞への結合に不可欠なスパイク糖タンパク質で6つの異なる変異が起きていました。

ベロ細胞内のウイルス量は最大で270倍も異なり、ウイルス量の多い細胞はすぐに死にました。変異により病原性が大きく変化し、強毒性の種が生まれることが実験で初めて確認できたそうです。

英王立化学会の「化学の世界」のコラムニスト、デレック・ロー氏は「新型コロナウイルスの遺伝情報の中のORF7bが変異していた患者は45日間も陽性だった。こうした変異が患者の回復の遅れとどんな相関関係があるのか調べてみる価値はある」と述べています。

これに対して前出の宮澤教授は「それぞれの点突然変異が対応する構造タンパク質や非構造タンパク質にどのような機能変化をもたらしているかも全く明らかでなく、本当にその変異でウイルスタンパク質の機能が変わるのか、何の証拠もない」と指摘されています。
4月27日「新型コロナは14日ごとに変異 感染研が分析 武漢株より怖い欧州株を食い止められるか」

新型コロナウイルスの患者5073人から採取されたウイルスのゲノム情報を解析した結果、1年間で25.9カ所に塩基変異が起きると推定されることが感染研の調査で分かりました。単純計算で平均14日に1度のペースで変異していることになります。

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