なぜ、検査に熱心な韓国でこれほど死者が少なく、検査プログラムの導入が遅れたイタリアではこれほどまでに多くの人が亡くなっているのか? 単に多くの検査を実施して軽症者も「感染者」のグループに組み込んだため、重症者のもたらす統計的なインパクトが薄れただけなのだろうか?
どうもそれは疑わしい。現時点では、感染者のパターンに大きな違いがあることが理由だと思われる。そして遠からず、病院や医療関係者にのしかかる負荷の度合いも、死者数の違いを生み出す大きな要因になっていくだろう。
これは米国の新型コロナウイルス対策に期待する人々にとっておそらくいい知らせとは言えない。現状で米国の検査体制の整備は遅れに遅れているが、単に検査そのものを行っただけでは問題の解決にならないことを示唆するものだからだ。
すでに多くの論文が指摘してきたように、イタリアの人口構成は世界の大半の国々とかなり異なっている。2015年の国連の報告書によれば、同国の人口の28.6%は60歳以上だ(33%の日本に次いで世界で2番目に高い割合)。これに比べ、韓国では60歳以上の人口は全体の18.5%と、世界で53番目の水準になっている。
この不均衡がもたらす影響は、新型コロナウイルスによる死者を分析すれば一目瞭然だ。イタリアでは本稿執筆時において、死者の9割を70歳以上の人々が占めている。
対照的に、韓国での感染拡大ははるかに若い年代の間で発生した。感染者のうち、60歳以上の占める割合は2割に過ぎない。最も感染者の多い年代は20代で、全体の3割近くがここに集中している。
次に性別の問題がある。新型コロナウイルス感染者の男女別の割合はだいたい半々だが、生存率には差がみられる。中国で起きた最初の感染拡大に関するデータによると、全体の死亡率は男性の4.7%に対し女性は2.8%と大きな開きがあった。韓国にとってはいいニュースだ。同国の感染者の62%は女性が占める。
喫煙の習慣もまた、低い生存率と明確に関連付けられる要因だ。両国の喫煙率はイタリアの24%に対し韓国が27%とほぼ同じ。ところが男女別の喫煙率には大きな違いがある。イタリアでは男性の28%、女性の20%が喫煙するが、韓国の喫煙率は男性のおよそ50%に対して女性は5%未満(!)でしかない。
言い換えれば、韓国では若年層並びにほとんど煙草を吸わない女性たちの間で、イタリアでは高齢者と超高齢者を中心に感染拡大が起きているということだ。後者の多くは喫煙者である(我々はイタリアの感染者の男女比を把握していない)。
こうした基礎的な人口統計データの特徴から、感染拡大で大打撃をこうむった2カ国の死亡率の違いが説明できる。それは同時に、米シアトルのケースを解明する手掛かりにもなる。高齢者介護施設で感染拡大が発生した同市の死者数は、米国内でも際立って高い。
現在何が起きているかを正確に把握するためには、日々の事例を更新し、患者の年齢や性別に関する情報を織り込んでいく作業が必要になる。
迂闊(うかつ)なことに米国は、効果的な検査プログラムが存在しない状態に陥っている。これは途方もない失策であり、結果として新型コロナウイルスの感染拡大に拍車をかけてきた(今後もかけるだろう)。
しかし肝心なのは、検査体制の不備と感染を生き延びることとは全く別の話なのだという認識だ。ウイルスに対する生存率を上げるのであれば、非常に異なる種類の投資や訓練、専門知識が必要になってくる。
最適なプログラムを実現するには、特殊なベッドを用意して床ずれを予防できるようにしなくてはならない。薬剤師には高齢者向けに特化した投薬の知識が求められ、看護師は体力の衰えた患者の介護に慣れている必要がある。
やみくもに検査の回数や対象を増やし続けるだけでは、すでに感染した米国民数千人の命は救えない。
感染者の増加を見越し、今以上に準備態勢を整えることで、それは可能になるだろう。そして韓国とイタリアが置かれた状況の際立った違いを考慮するなら、今こそ専門家集団からなる委員会を立ち上げるべきだ。老人病専門医や社会科学者、ICUの専門家などを招集し、最良の方策をまとめて高齢者のリスクに対処する。それが新型コロナウイルスの感染から高齢者を守り、必要な治療を施すことにつながるのである。
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医学博士のケント・セプコヴィッツ氏による寄稿です。同氏はニューヨーク市にあるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC)に籍を置く感染対策の専門家です。記事における意見や見解は全てセプコヴィッツ氏個人のものです。
COLUMN
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスは世界に広まり、WHOはパンデミック宣言を行った。
人工的に作られた
武漢で発生後、世界的感染には至っていなかった1月半ば、米紙ワシントンタイムズはイスラエルの専門家を情報源として、ウイルスは武漢にある研究施設から流出した可能性があると報じた。またウイルスは人工的に作られたという推論をインド人研究者がインターネットに投稿して話題になった(論文は後に取り下げた)。
3月になり、武漢に作られた仮設病院も閉鎖され中国の感染が落ち着いてきた中で、新型コロナウイルスの起源が米国である可能性を示唆する記事が出てきた。中国のニュース機関CGTNは、中国科学院の学術論文ChinaXivに投稿された93件のウイルスのゲノム情報に関する研究結果から、人から人への感染は2019年11月末か12月初めに始まり、ウイルスが武漢の生鮮市場にもたらされたのはその後だったと報じたのだ。さらに新型コロナウイルスは変異によりグループAからEの5種類に分類され、例えば武漢のウイルスはそのうちのグループC、日本はグループAとC、台湾はグループBとDであり、5種類全てが発病しているのは米国だけだとした。
どうやって中国へ
米国がウイルス発生地だとすればどうやって中国へ来たのか。インターネットで検索すると、中国で新型コロナウイルスが発生する数週間前の10月18日から10日間、武漢で「軍事運動会」が行われていたことが分かる。世界109カ国から9308人の軍人が参加し、米国からは200人が参加した。意図的か偶然かは分からないが、この中の感染者によってウイルスが中国に持ち込まれたのではないか。
米国ではこの冬インフルエンザが猛威を振るい、2万人を超す死者が出ている。米国疾病管理センターによると、インフルエンザとされた患者から集めた検体を調べたところ、実際にはインフルエンザではなかったものが多くあったという。新型コロナウイルスによる死者が含まれている可能性もある。つまり新型コロナウイルスは、中国発生というよりも、検知し新型ウイルスだと断定したのが中国だったのではないか。
もう一つ興味深いのは、武漢でコロナウイルスが大発生する以前の2019年10月に、「次に起きるパンデミックはコロナウイルスによる」ことを想定した『イベント201』がニューヨークで行われていたことだ。ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センター、世界経済フォーラムの共催で行われたこのイベントでは、コロナウイルスは18カ月以内に6500万人の死者を出し、世界経済を大暴落に追い込んでいくというシミュレーションがなされていた。
新型コロナウイルスが自然発生ではなく人為的だという証拠は永久に出ることはないかもしれない。しかしウイルスに国境はなく、一度放たれると標的だけでなく使用した側も感染する。『イベント201』のシミュレーション通り事態が進行する中、これほど早く中国が感染から立ち直ることは想定外だったかもしれない。
(評論家)
新型コロナウイルスの発生源をめぐって、アメリカと中国が対立している。
アメリカ側は「中国ウイルス」「武漢ウイルス」などと呼んで中国の責任を問う姿勢なのに対し、中国側は「武漢が発生源かは分からない」「中国国外から持ち込まれた可能性がある」と主張する。
なかでも注目を集めたのが、中国外務省の趙立堅・副報道局長のツイッター投稿(3月12日)だ。
趙立堅氏は、3月11日に米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長が米下院聴聞会で「インフルエンザ感染者の中に、新型コロナウイルス感染者が混じっていた例があったと思われる」と発言したことをとり上げ、次のようにツイートした。
趙立堅氏はレッドフィールド所長の揚げ足をとって、アメリカでの発生のほうが先だろうと示唆した。何ら具体的な根拠がない、荒唐無稽な論理だが、中国政府高官がそうしたことに公式に言及するのは異例のことだ。
「自称」上海復旦大学の客員教授のトンデモ記事
ところで、実は趙立堅氏は前述したツイートの翌日、新型コロナウイルスの起源を知るうえで参考になるとして、2本のウェブ記事を紹介するツイートを投稿している。
「中国のコロナウイルス~衝撃の新情報、ウイルスはアメリカ起源か?」(3月4日)
「COVID-19~ウイルスがアメリカ起源であることを示すさらなる証拠」(3月11日)
趙立堅氏のアメリカ起源説のネタ元は、どうやらこれらの記事だったようだ。書いたのはいずれも同じ人物。両記事について、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が興味深いことを書いている。
「新型コロナはアメリカ起源説、背後にカナダ人作者」(3月26日)
WSJによると、趙立堅氏が引用した2本の記事の執筆者であるローレンス・デルビン・ロマノフ氏は70代後半のカナダ人で、ほぼ常に反米・親中国の論調で記事を発表しているという。
例えば、「1989年の天安門事件については、人民解放軍による発砲は学生たちの民主派デモとは無関係であり、『暴漢』や『無政府主義者』が兵士を攻撃したため自衛したにすぎない」といった具合だ。
同記事によると、ロマノフ氏は過去に怪しげなビジネスを行って有罪判決を受けている。上海の復旦大学の客員教授と自称しているが、WSJが徹底的に調査してもその事実は確認されなかった、という。
いずれにしても、こうした怪しい人物が、怪しげな陰謀論をネット媒体に書くことは、そう珍しいことではない。
ただし、中国政府高官が一種のトンデモ記事を根拠として陰謀論を公式に主張するのは、ロシアの情報機関などが用いてきた「裏のフェイク情報工作」とは異なる、「なりふり構わぬフェイク情報工作」である点で、国際政治史的にエポックメイキングな出来事と言える。
「オタワ大学名誉教授」らが陰謀論の発信源
オタワ大学名誉教授で「センター・フォー・リサーチ・オン・グローバリゼーション(CRG)」所長のミシェル・チョスドフスキー氏の講演。
Paul S. Graham
さて、前節で紹介したWSJ記事では、ロマノフ氏という怪しい人物の正体がメインになっているが、フェイク情報工作のウォッチャーとして筆者が注目するのは、それよりそのトンデモ記事を掲載したメディアのほうだ。
WSJ記事では単に「カナダ・モントリオールに拠点を置く、他のメディアとは異なる視点の記事を掲載するウェブサイト」「独立系の研究・報道組織を自称するウェブサイト」としか触れていないが、実はこのメディア、フェイク情報工作ウォッチャーの間では有名な陰謀論サイトだ。
サイト名は「グローバル・リサーチ」、運営しているのは「センター・フォー・リサーチ・オン・グローバリゼーション(CRG)」。公的なシンクタンクを彷彿とさせるネーミングだが、所長のミシェル・チョスドフスキー氏が2001年に創設したきわめて小規模な仲間うちの組織。
チョスドフスキー氏は、陰謀論の世界ではかなりの有名人だ。カナダ人の経済学者でオタワ大学名誉教授。こうした肩書きから、陰謀論を語る他の反米・反グローバリゼーション活動家よりは「格上」と見なされている。その主張はかなり独特なので、いくつか例示しておこう。
- 9.11テロは米中央情報局(CIA)の自作自演。中東を支配するためのアメリカの陰謀で、オサマ・ビン・ラディンはCIAの工作員
- アルカイダもIS(イスラム国)もアメリカが作った。アメリカはIS掃討を口実に中東への派兵を行い、支配を目論んでいる
- シリアでの化学兵器使用は、アサド政権ではなく、反体制派による自作自演
このグローバル・リサーチの一派は、陰謀論系の反ワクチン運動(=ワクチンの接種を拒否する運動)を推進しており、ホロコースト否定論も打ち出している。
また、チョスドフスキー氏は、ロシア政府系メディアの「RT」「スプートニク」にしばしば登場する。西側諸国の分断を煽るような言説の出どころはロシアの情報工作、というケースが昨今増えているが、チョスドフスキー氏らグローバル・リサーチの一派はその拡散に少なからず関与している。
その主張は徹底して反米・反北大西洋条約機構(NATO)であり、同機構の戦略的コミュニケーションセンター(ストラトコム)は、グローバル・リサーチをロシアのプロパガンダの主要な拡散装置の一つと見なしているとの報道もある。
今回は、そうしたいわくつきのウェブメディアに中国政府が「乗っかった」形だ。趙立堅氏のツイートに「もしかしたら中国は何か情報を握っているのでは」と考える向きもあるようだが、情報の根拠は基本的にこの程度のものにすぎない。