査読に8年間かかった!
証明が正しいか数学家専門チームの反証(間違っているという論拠)に耐えること。
予想問題とは
を満たす、互いに素な自然数の組 (a, b, c)に対し、積 abcの互いに異なる素因数の積を dと表す。このとき、任意の ε > 0に対して、
を満たす組 (a, b, c)は高々有限個しか存在しないであろうか?
解いたのは、京都大学
論文が数学専門誌に掲載されることが決まった。3日、京大が発表した。
ABC予想は、素因数分解と足し算・かけ算との関係性を示す命題のこと。4編計646ページからなる論文は、斬新さと難解さから査読(論文の内容チェック)に8年かかった。その正しさが認められることになった。
有名な数学の難問「フェルマーの最終定理」(1995年解決)や「ポアンカレ予想」(2006年解決)の証明などと並ぶ快挙。
abc予想は、この予想から数々の興味深い結果が得られることから有名。
数論における数多の有名な予想や定理が abc予想から直ちに導かれる。
Goldfeld (1996) は、abc予想を「ディオファントス解析で最も重要な未解決問題」であるとしている。
2012年8月、京都大学数理解析研究所教授の望月新一は abc予想を証明したとする論文を発表した。
望月は証明に用いた理論を宇宙際タイヒミュラー理論と呼んでおり、スピロ予想とヴォイタ予想の証明などを含む応用があるという。
望月の論文は専門家にとっても難解であるため、査読は難航したが、5年越しの2017年12月、専門誌に掲載予定であることが報道された。
2020年4月3日までに査読を通過し、専門誌「PRIMS」に掲載されることが決定した。
この証明の破壊力
abc予想を真だと仮定すると多数の系が得られる。その中には既に知られている結果もあれば(予想の提出後に予想とは独立に証明されたものもある)、部分的証明となるものもある。
abc予想がもし早期に証明されていたなら、得られる系という意味での影響はもっと大きかったが、abc予想が成立した場合に解決される予想はまだ残っており、また数論の深い問題と数多くの結び付きがあるので、abc予想は依然として重要な問題であり続けている。
- トゥエ=ジーゲル=ロスの定理
- 代数的数のディオファントス近似に関する定理。
- フェルマーの最終定理
- ただし指数が十分大きい場合(どの程度大きければよいかは K(ε) に依る)。定理自体は(abc予想とは独立に)ワイルズが証明した。ある K(ε) が具体的に求まれば、有限個の例外を直接計算することにより、原理的にはすべての指数 ≥ 4 に対して証明が可能である。ε = 1 のとき K(1) = 1 という予想もあり、この仮定の下で、指数が 6 以上の場合は直ちに証明される (Granville & Tucker 2002)。
- モーデル予想(ファルティングスの定理)
- (Elkies 1991)
- エルデシュ=ウッズ予想
- ただし有限個の反例を除く (Langevin 1993)。
- 非ヴィーフェリッヒ素数が無限個存在すること
- (Silverman 1988)。
- 弱い形のマーシャル・ホール予想
- 平方数と立方数の間隔に関する予想 (Nitaj 1996)。
- フェルマー=カタラン予想
- フェルマーの最終定理の拡張であり、冪の和である冪を扱う (Pomerance 2008)。
- ルジャンドル記号を用いて記述したディリクレのL関数 L(s, (-d/.)) がジーゲル零点を持たないこと
- (正確には、このためには上で紹介している有理整数を扱うabc予想に加えて、代数体上の一様な abc予想を用いる。)(Granville & Stark 2000)。
- Schinzel–Tijdeman theorem
- P を少なくとも3つ以上の単根を持つ多項式とすると、P(1),P(2),P(3), … の中には高々有限個しか累乗数が存在しない、という定理 (1976)。
- ティーデマンの定理の一般化
- ym = xn + k が持つ解の個数について。ティーデマンの定理は k = 1 の場合を述べている。また、Aym = Bxn + k が持つ解の個数に関するピライ予想 (1931)。
- グランヴィル=ランジュバン予想と同値。
- 修正したスピロ予想。
- これは境界として を与える (Oesterlé 1988)。
- 任意の整数A について、n! + A = k2 が有限個の解しか持たないこと(一般化されたブロカールの問題)(Dąbrowski 1996)。
- 定式化
自然数 n に対して、n の互いに異なる素因数の積を n の根基 (radical) と呼び、rad n と書く。以下に例を挙げる。
- p が素数ならば、rad(p) = p.
- rad(8) = rad(23) = 2.
- rad(45) = rad(32 ⋅ 5) = 3 ⋅ 5 = 15.
自然数の組 (a, b, c) で、a + b = c, a < b で、a と b は互いに素であるものを abc-triple と呼ぶ。大抵の場合は c < rad(abc) が成り立つが、abc予想が主張するのはこれが成り立たない例(例えば、a= 1, b = 8, c = 9 のとき rad(abc) = 6 である)の方である。ただし、c > rad(abc) が成り立つ例も無限に存在するため、rad(abc) を少しだけ大きくすることで例を有限個にできないかどうかを考える。すなわち、abc予想は任意の ε > 0 に対して、次を満たすような自然数の組 (a, b, c) は高々有限個しか存在しないであろうと述べている:
- (K(ε) を ε に依らずに取ることはできない。)
これと同値な他の定式化(Oesterlé–Masser の abc予想)として次のものがある。すなわち、任意の ε > 0 に対してある K(ε) > 0 が存在し、全ての abc-triple (a, b, c) について次が成り立つという:
三つ目の定式化は「質」(quality) と呼ばれる概念を導入して表現する。abc-triple (a, b, c) に対して、質 q(a, b, c) を次のように定義する:
このときabc予想は、任意の ε > 0 に対して、abc-triple (a, b, c) であって q(a, b, c) > 1 + ε を満たすものは高々有限個しか存在しないということを主張している。
現在、q(a, b, c) > 1.6 を満たす abc-triple は後述の通り3組しか知られていない。q(a, b, c) を 2 まで大きくすれば、そうした abc-triple は存在しないという予想もある。すなわち「全ての abc-triple (a, b, c) に対して、c < rad(abc)2 を満たすであろう」という主張だが、こちらも肯定も否定もされていない。
望月教授の最も美しい解法とは?
望月教授は2012年8月、構想から10年以上かけた「宇宙際タイヒミューラー(IUT)理論」の論文4編を、インターネット上で公開した。
これを用いればABC予想など複数の難問が証明できると主張し、大きな注目を集めたが、既存の数学が存立する枠組み(宇宙)を複数考えるという構想はあまりに斬新で、「未来から来た論文」とも称された。
加えて、1000ページを超える望月教授の過去の論文に精通しないとIUT論文を読み解くことは難しく、理解できた数学者は世界で十数人しかいないと言われている。
孤独な魂 孤高な信念
次のような印象をもたれていたのだ。
「IUT理論とは単に新奇な抽象概念が恐ろしく複雑に絡まりあっている理論装置で、その中身はあまりに複雑なので、それをチェックすることは人間業では到底困難である」。
したがって、だれもその真偽をチェックできない以上、これ以上まともに請けあってもしょうがないと、多くの数学者たちは考えているようです。
また、この理論に疑義を唱えている数学者もいます。望月教授はそのような何人かと、2018年の春に京都で議論する機会があり、数学者のコミュニティーではかなり話題になりましたが、そこでもこの論争に対して結論的合意に達することができない。
このことも、IUT理論についての上記のような印象に拍車をかけていた。
望月教授の証明は、8年間も
世界の数学者の反証に耐え抜いたのだ!
#ABC予想 #数学難問