海水を空からぶちまけたようなスコール。今日のスコールは強烈だったな、と人心地をつく。
アンへレスに近いプリメタで呑んでいると、何度か一緒に呑んだ八木澤さんがびしょぬれになってやってきた。
わたしよりずっと年配だがすらっと背が高く、ハンサムで30代後半。
彼はフィリピンのいろんなはおもしろい風習を聞かせてもらった。
マニラから南に600キロにある島。といっても大きな島だけど、、、と彼は断って、アンへレスで会った19才の娘との出会いを話してくれた。
北海道で自動車工場に勤めていた八木澤さんは、旅行が大好きで真冬には東南アジアへ行くの趣味。
マリッサはスペイン人の血が流れているみたいで、顔かたちが整った美女だった。ディスコで彼女が見つけのがはじまりで、彼は控えめながら、美しい肢体をしたマリッサにひかれた。
このアンへレスで働きはじめてまだ、3週間だという。1カ月目に田舎に帰るのを何よりも楽しみにしている。そんな家族思いの娘だった。
一方、八木沢さんの方は父親に早く死なれ、母親が蒸発、親戚の家に預けられ高校まであげてもらった青春は、思い出したくもない過去だった。
それに比べ、マリッサはいきいきと家族のことを話してくれて、家族っていいものだなと思ったのだ。
やさしい、思いやりのある娘で、いつも汗びっしょりの彼の額や首から吹き出す汗をハンカチでぬぐってくれる。
ある日、メリッサは彼の顔をのぞきこんで、言ったそうだ。
「わたしの田舎に来ない? 教会のほか何もない絶壁にある村だけど、山が深くて、海が紺碧なブルー。兄弟や子どもたちに紹介したいの」と言った。
彼はそくざに行くことに決めた。
家族のいない彼にはうらやましかったのだ。
だが、フェリーとバスでどれほど走った?
「うふふ、きっと8時間ぐらい」。
そして、ついた村。100人ぐらいが小さな地区にひと塊に暮らしていた。ずっと昔、スペイン人が教会を立てた、キリスト教を布教した痕跡が残っていた。白壁がめぐらせた一角があり、その周辺に村人は家族ごと掘立小屋を建てて、畑を耕して暮らしていた。
道は最近、広げられたが、車は1台もない。電気は数年前にきた。
文明がまだこの村にはやって来ていなかった。
それでも彼がむかえた朝、外人が来たというので、村をあげての小さいながら宴が開かれたのだ。言葉は通じないが、こどもたちに取り囲まれ、メリッサに親戚に紹介され、彼はすっかり、人気ものになった気がしてうれしかった。
「これはもしかしたら、メリッサが花婿を連れて帰った」とみんなが勘違いして催しくれた披露宴ではないかと思ったのだ。
3日間、彼はまるで夢のような日々を送ったのだ。
桃源郷の村に棲む人びと
こどもたちに連れられて行った入り江。
そこでの椰子の木陰での漁師生活。漁師小屋をつくり、みなで漁をしバーベキューをするのは、彼にとってはすべて始めての経験だった。
彼は決心した。次はきっとカネをためて、みんなのために家を建てて、車をもってきてやる。それをメリッサに約束した。
それから半年後。中古のピックアップバンに屋根がついた紅い車に、それこそ生活道具をいっぱい積んで彼はやってきたのだ。
あの桃源郷のような田舎に。多くのひとがスペイン人の血をひいているようで、肌が白いひとも多いのだ。
だが、2代前の神父が国に帰ってしまって、この村は文明から見放されたように、足踏みをしていた。
携帯は知っていたが基地局がないので使えない。
「よし、俺がかけあってやる」。
「井戸がほしい」
「きっと、堀りあててやる」。
八木澤はいつしか、神父や村長に並ぶ、酋長のような存在になっていた。カネは誰よりもあり、その財力は凄まじかった。半年ごとに信じられないプレゼントをもってかえって来る。
こどもたちにとっては、まるで真夏のサンタクロースのような存在。
だが、3回目に村に来たとき、彼の桃源郷の夢は霧散した。
彼がマリッサの弟に働き口にと、ジプニーとして車を貸していたら、こともあろうに、弟とマリッサが寝ているところを目撃してしまった。
ふたりはすまなそうに本当のことを話した。
ふたりは夫婦だったのだ。八木澤さんが会う前にふたりは結婚して、八木澤さんになついていた小さなおんなの子は二人の娘。それだけではない、彼女は年齢を5つのさばを読んでいた。
そんなことはどうでもいい。
村全員にだまされた、俺の人生は?
でも、よく考えたたら、「ああしよう、こうしよう、ホテルを建てるど、発電を始めよう」と夢をいつも追いかけた札幌郊外での日々。
それはまぎれもない「夢」のような人生だった。
もしかして、マリッサに聞いてみた?
「俺を愛してるといったのは嘘だったのか?」
彼女は泣きながらも、まっすぐ彼の目を見据えて言った。
「心から愛してるわ!!」
彼女の夫もウンウンとうなずいている。
「えっ」。
彼は帰り支度をはじめた。
すると、神父をはじめ、村長やシャーマンまで彼を引き止めに来た。それどころではない、ほとんど知り合った全員が集まってきているではないか!
村人たちの涙のわけ
それでも、
彼はひどく傷ついていた。
マリッサや彼女の夫は泣いて、別れを惜しんでくれる。村長も嘘の挙式をあげた神父までも。
それを振り切って車をだした。
涙でフロントガラスの先が見通せない。
夕闇がせまる一本道をフェリー乗り場に向かう途中、はっと思いあたった。
「あの村、もしかして、一妻多夫なのか?」
彼はまちがいなく、夢のような2年間を送ったことに気づいた。
八木澤さんは、この話を2回に分けてわたしに聞かせてくれた。その村がどこにあるか、そして、外国人が村に入り込むたびに、文明が進む様をおもしろおかしくしゃべってくれる。
フィリピンにはいまも、そんな村があるのだ!
村ぐるみの詐欺にあったような、不思議な娘の二重婚。
そうでもしなければ、生きてゆけなかったからだろうか?
不思議な風習がいまも残る。
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