AMAZON ベソス氏の彼なりの民衆への還元策
自由な報道が許されない闇では、民主主義は死ぬ
アマゾンのジェフ・ベソスCEOがワシントンポストを買収したのは2013年8月。わずか2億5000万ドルだった。
このころからトランプ氏との確執があらわになっていた。
ドナルド・トランプ氏と、同じく巨万の富を得ているアマゾンのCEO、ジェフ・ベゾス氏がTwitter上で罵り合いを展開しているのは良く知られている。
最初に口火を切ったのはトランプ氏。
「ベゾスが買収したワシントン・ポストって単なる税金逃れの為だろ」といきなり斬りかかり、「赤字垂れ流し新聞のワシントン・ポストは、アマゾンの税金のシェルターに使われるにすぎない」。
さらに「アマゾンがちゃんと税金払った株価暴落で、株も紙くず同然だろ!」とあおっていくスタイル。要は、ベゾスが2013年に買収したワシントン・ポスト紙はアマゾンの税金対策に利用されているという投稿だ。
これに返信したベゾスのツイートはより過激だった。「トランプが俺に斬りかかって来た。ブルーオリジンに席を用意しとくよ」。
要は「俺んとこのロケットで宇宙に飛ばしてやる」という、さらりと熱いレスポンス。もはやそこら中で喧嘩をしかけては、炎上だけで大統領選を戦おうとしているブレーキが壊れたダンプカー、ドナルド・トランプを止めるには宇宙に飛ばすしかないか
ないというほどエスカレート。
影響力の獲得:ベゾスはWPの買収によって自分の影響力の強化を狙った?
ベゾスはワシントンでの政治的影響力の強化を狙ってWPを買ったのだという声もある。ベゾスとAmazonがここ何年も税金をめぐって――というか税金を払わないことをめぐって州や連邦政府と悶着を起こしていることは周知のとおり。ときおりベゾスはAmazonの発送センターの労働条件をめぐって、エアコンや長時間残業などの問題で×をつけられてきた。
しかしベゾスほど頭がよい人間がこういう問題が2億5000万ドルの小切手を切って大勢の記者を雇ったくらいで解決するわけがないことくらいよく分かっているはずだ。
そもそもワシントンで影響力を得たければもっと簡単で効率的な方法がある。選挙資金を寄付すればいいのだ。その後をロビイストにフォローさせれば万事メデタシだ。影響力を拡大するために新聞を買うというのはおそろしく能率の悪いやり方だ。
19世紀や20世紀なら新聞経営は権力と影響力を拡大するうえで重要な手段だったかもしれない。21世紀には影響力は金とデータ量だ。金とインクではない。この点については別に論じることにしよう。
そうは言ってもベゾスはワシントンを年に何回か訪問することになるだろうし、WPの何百人もの記者が社交係秘書を務めてくれるというのは便利だろう。WPのコネを使えば、食事をともlにすべき適切な相手を選び、アポを取るのに便利だ。もちろんそういうコネがなくてもベゾスが人に会うのに不自由するわけではないが、ワシントンの権力の中枢に深く張り巡らされたネットワークのオーナーであるのは悪いことではない。
結論:ベゾスは政治的影響力を強化したり特定の政治的アジェンダを達成するためにWPを買ったわけではない。とはいえ有益な副作用は存在するだろう。
商品宅配サービスの下準備として日刊新聞経営に乗り出した
ベゾスはやがて始めようとしている商品宅配サービスのリハーサルとしてWPを買ったというものだが、2億5000万ドルも出して新聞を買ったところでまったく別の商品の宅配のソリューションが得られるものではない。
そもそもベゾスは商品宅配に関しては世界最高クラスのエキスパートだ。どのように流通コストを最小にするか、どのようにして利潤を得るかといったことには完璧な知識がある。そのことはAmazonプライムの成功や郵便局の私書箱のようなAmazon受け取りボックスの実験などで十分に示されている。しかもこの仮説ではWPの買収がAmazonではなくベゾス個人で行われた理由を説明できない。
結論:WPの買収はAmazonの宅配事業とは無関係だ。
野心:ベゾスは大統領を目指している。
1995年当時、ブルームバーグやシュワルツェネッガーがニューヨーク市長やカリフォルニア州知事に出馬する、それどころか何期も当選するなどといったら大笑いされただろう。だからベゾスが将来政治システムの改革に乗り出すということがないとはいえない。
しかし、毎年1つか2つの大規模な新事業を(Amazonの枠内とはいえ)スタートさせてきたベゾスが10年かそこらの長期間政治に専念するなどということは考えにくい。
ワシントンで政治に携わるよりずっと知的刺激に富み、世界にもっと大きな影響を与えることができるプロジェクトはいくらでもある。宇宙開発、老化防止、癌、エネルギー、ロボット、地球温暖化、人工知能等々。ジェフは民主党員と共和党員が選挙区向け利権をめぐってつかみ合いをしている中に身を置くより、科学者や起業家とこういう問題に取り組む方をはるかに好む人間だ。
いや、ホントの話。
結論:ありえない。
挑戦
これがいちばんありそうな仮説。ジェフは容赦無いまでに好奇心が強く、物事の仕組みを突き止めずにはおかない男だ。
ジェフは質問をしまくる。(いろいろな情報源が揃って証言するところでは)膨大な本を読む。どんな物事も仕組みを解明したがる。EC2によるクラウド・コンピューティング、Kindle Fireによるタブレット、Amazon Primeによる映画/テレビ番組配信、Amazon Studiosによる(まだあまり知られていないが)ビデオコンテンツ製作。 ブルー・オリジンの宇宙プロジェクト、それにあの1万年時計プロジェクト。
ベゾスが手を出す分野には多少の気まぐれも混じっている。一方でドン・グレアムはこの20年以上テクノロジー系カンファレンスにまめに顔を出している。握手をし、若い起業家に話しかけて回ってきた(ベゾスももちろんその相手の一人だった)。ベゾスも同様だ。
ドンは年のせいもあってだいぶくたびれてきている。ベゾスは無尽蔵の精力と使い切れない小切手帳の持ち主だ。この両者がまさに10年に一度のタイミングで出会ったのではないか?
結論:ジェフがWPを買ったのは、知的好奇心と新事業への挑戦の精神、それに少々の偶然が加わった結果だ。 ベゾスが「トップ5の新聞が売りに出たら買おう」と考えて待ち構えていたとは思えないし、それにさらに別の新聞を買うこともない。
国境なき記者団を支援
さらに、なんとベソス氏は「国境なき記者団」 に25万ドル(約2700万円)を寄付していた。昨年12月のこと。貧乏所帯のNGOはびっくりしたはずだ。
ワシントン・ポストの題字下にベソス氏が掲げさせたと思われる「自由な報道が許されない闇では、民主主義は死ぬ」の標語。
ベソス氏は彼なりの方法で、世界に自らの財を還元しようとしているのだろうか?
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