宇宙の形第4幕
第1部
ポアンカレ北壁の死闘
ハミルトンを捉えた天才数学者ペレリマンに中国からとんでもない刺客
オリンピックを控えた中国が謎の勝利宣言!
ポアンカレ予想とは、いったい何なのだろう、と突詰めて考えたひとは何人もいる。その数は数学者エキスパートレベルで100人は超えている。1、2幕でも述べた次元を超えて証明したアメリカ人のスティーブン・スメール博士などの高次元ポアンカレを証明したグループ。カタストロフィ理論で有名なジーマンもそうだ。
また、ポアンカレ予想の本質を見抜き、その問題の正体に気づき、正しい位置に問題を据えたウィリアム・サーストン博士たちのグループ。
それだけではない。それ以前にもギリシャ人数学者の第一人者だったパパキリア・コプーロス博士、ライバルのドイツ人のウォルフガング・ハーケン博士など、その時代のトップレベルの学者が挑んでいずれも退けられている。
この後、さらこの問題に取り組んでいたアンダーソンもいる。このドラマに欠かせない役割を演じたのは、中国人ツァオとチュウ。この2人はマスコミをけしかけた奇襲戦法を仕掛けたのだ。
問題に最後まで挑み続けた男。カリフォルニア大学バークレー校のリチャード・ハミルトン博士。彼の証明方法はポアンカレ予想だけでなく、それを含む、サーストンの幾何化予想を解決しうるものとして、1980年代に彗星のように現れた。
次元を駆け上がっても証明できないポアンカレ予想、そして、その問題の本質であるところの「宇宙の姿」の全容をつきとめたサーストン予想、それらから、問題解決への突破口を見出したのが、リッチ・フロー・プログラムを提唱したハミルトン博士だ。すでに20代でそのヒントをつかんでいた彼は、大胆な提案をまとめ、発表した。
リチャード・ハミルトン(Richard Hamilton)
1982年、「正のリッチ曲率をもつ3次元多様体」と題する一遍の論文を発表する。これは「微分幾何学ジャーナル」に掲載され、おおきな反響を呼んだ。
なぜか? これが誰も入り込めなかったポアンカレ予想の証明戦略を示していたからだ。
その内容は、正の曲率をもつすべての多様体は、リッチフロー(微分方程式)をかければ、方向にかかわらず、一定の多様体に変化するというものだ。
つまり、誰もがそうだと思い込んだしまったトポロジーの問題を隣りの世界の微分方程式で証明しようと説いたのである。
リッチフローとは、リッチ・テンソルを多様体のスケールの変化に関連づける微分方程式のことで、テンソルとは、形の曲率をさし、スケールは形の拡大率を示す。
つまり、コンピューターグラフィックスで、衛星から送られてきた地球の映像は雲がかかり、はっきりとした地形はわからないが、晴れ上がりという時間の経過を待てば、はっきりと地形を示し、さらに順々に拡大を進めて行くと、街の交通渋滞が現れ、それがなぜ起こったのか時間を巻き戻して分析するような2重の関数を作ったのだ。
コンピューターのプログラミングの入門編を知っているひとなら、簡単な関数である。
関数は自分で作ることができるので、見てほしい。