知の冒険者が集うHOTEL
数学世紀の難問リーマン予想は、
衝撃 なんと、物理の難問だった。
新刊発売予定 宇宙の形第3幕 物理学者たちの死闘
世界中のホテルを泊まった富豪でも、泊まれないホテルがアメリカにあるのをご存知だろか? ドバイのあれ? タンザニアの?
FIFAの使ってたホテル・ボーオーラックとか?
もったいつけずに、教えろ!
いや、いや、だめです
このホテルは宿泊者を選ぶのです。
資格がいります。わたしはこのホテルのコンシェルジュですが、ここに来て10年、実に立派な紳士ばかりでした。
世界の「知の冒険家」だけが泊まれるホテル。
本の表紙をめくらないでほしい。これはNEWYORKERでもコスモポリタンでもない。「宇宙の形」。しかし、その内容は両誌よりはるかに格調高い。
もう、これだけもったいをつけたからいいだろう。ここはプリンストン高等研究所である。そんなに大きいわけではないが、研究者にとってはとても居心地がいい、いたれりつくせりのホテルだ。伝統があり、3時のティータイムにはみんな仕事を終えて、降りてくる。そこで話す話題は、世界で最新の数学や物理の話題で、それがそのまま世界最新の科学ニュースであったりする。
そうそうたるメンバーが宿泊している。
プリンストンは小さな町だ。その町で開かれたパーティに招かれたある白髪の研究者の隣に18才の女性が座った。
好奇心旺盛な彼女は紳士に
何をなさってるんですかと聞いた。
「物理学を勉強しています」
「あら、わたしなんか1年前に終えたのに」。
紳士はにっこり笑った。
アルバート・アインシュタイン博士だった。
このプリンストンは、フレクスナーが構想した世界の知の巨人たちをアメリカに呼び寄せるために創設した高等研究機関。資金はデパート王のルイス・バンガーガーが全額提供した。そして、わたしには、一度も招待状がきたためしがない。
アインシュタインがいた時分は、18人の終身所員と客員研究者たちが宿泊していた。その宿泊帳には数学者クルト・ゲーデル、ウォルフガング・バウリ、湯川秀樹、フォン・ノイマン、ニールス・ボーアなど錚々たるメンバーがいたのだ。
アインシュタインは1933年秋からここで研究生活に入ったが自由な雰囲気が大好きなアルバートにとっては過ごしやすいホテルだった。というのは彼はユダヤ人を迫害していたヒトラー政権下のヨーロッパから指名手配されており、安息の地がアメリカ以外にはなかったのである。
時代は流れて現代へ。
数学者のモンゴメリーはプリンストン研究所に訪れており、3時のティータイムに1階のサロンに降りていた。友人の強いすすめで、物理学者のフリーマン・ダイソンを紹介しようという。
モンゴメリーは別に彼に興味があったわけではないが、ダイソンがモンゴメリーに「今、何を研究しているのですか?」とたずねるので、もっていたノートに書いていた、ある数式を見せた。
それはあの世紀の難問「リーマン予想」のゼータ関数、ゼロ点の間隔を示す数式だった。
それを見たダイソンは、驚愕したのだ。
彼が研究していた分野の「原子核の間隔」を示す数式とまったく同じ構造だったのだ。
- 作者: Evan Hiroyuki Shintani
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