ReuterJapanNews’s Dialy

バンコク駐在記者。ヤンゴンからチン州ミンダットに転戦。国際NGOと連携して国軍の攻撃から逃れる難民を救おうと頑張っています。

中村あやさ Violinist

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ROCKVIOLINIST 中村あやさ さん

 

素数ノ謎 解明への航海第4章 Ⅹ億の夜と十億の星より

 

 

1階の下から、少年が大声で呼んだ。窓から若い女が顔をだす。入ってと手招きをする。階段を少しあがるとすぐドアがある。地震で建てつけが悪くなり、渋い。

「ナマステ、メロナーム Evan」

ネパール語はそこまでしかしゃべれない。

3人で何日か泊めてもらえませんかと聞いた。

 

部屋は3階に空いていた。その上には屋上へあがる階段がついている。部屋は作りつけの箪笥やベッドが1つ。それにソファーがある。1階に降りると主人がお茶を用意してくれていた。

「ケッカーム ガルム フンチャ?」

「ジャーナリストです」。

ここからが大変だった。少年がアンジェラにタイ語で伝え、アンジェラはわたしに英語で伝える。

見かねた主人が英語に切り替えてくれたが、彼の英語はほとんど意味不明だった。それでも愛想よくしてくれるので、3日間だけでもと言って、手を合わせると、首を横に揺らしながら微笑んでいる。

OK のサインだった。

1階のフロアでは若い奥さんが夕食を用意してくれている。チャターマリ(ネパールピザ)、揚げパンのようなものにチャパティ。壁際に美しい刺繍を施したタペストリー、それに楽器のようなものが掛けられていた。

わたしは、そのなかのひとつはもしや、この地方に伝わる古代のバイオリンではないかと思った。それを壁掛けから外して調べると、ペグが4本、それに胴をくりぬいたボディー。まさにバイオリンの原型である。

弾いていいかと主人にジェスチャーで伝えると、どうぞと言うので、かなり短い弓で音をだしてみた。

 

 

 バイオリンより低く心地いい音色だ。しかし、思ったより音は小さい。バイオリンのような複雑な振動によるハウリングのような音の重厚さはないが、素朴ないい音色だ。

「SARANGI」という名前の楽器だと奥さんが教えてくれた。彼女に手わたすと、軽く会釈をして首からひもでサランギをまっすぐ胸に抱くようして弓を当てた。

 楽しくなるようなリズミカルなメロディーが流れ出た。それは何度も同じフレーズが繰り返されているように思えたが、少しづつ変化している。楽しくなってくる。

彼女はわたしにも弾いてみない、と手渡す。このままではとても弾けないのでバイオリンのように指で音程をソレラミに調律する。

みんなの期待を一身に浴びているので、日本の曲を弾き始めた。

 

 

「♪遠く輝く、あの星たちはどうして、近くに見えるのに

一番近くにあるまつげ、どうして誰にも見えないの」

 

「近すぎて見えない、大切なものがある

君のまわり見てごらん、優しい笑顔あふれてる」

 

「遠く輝く、あの星たちはどうして、近くに見えるのに。

一番近くにある睫、どうして誰にも見えないの」

 

 

わたしは、大好きなバイオリニスト中村あやさ(注記巻末1)の代表曲「RYUKYU SONG」を弾き始めた。最初のフレーズはギターのように指で弦をはじくのだ。そして、第2フレーズから思いきり、弓を絞るように弾き始める。暖かい心が篭った旋律がカトマンズの夜に流れ出した。

 

壁にはまだまだ面白そうな楽器が備え付けてある。日本の竜笛のような横笛、それにアコーディオンのような小型のHRMO

NIUM(手風琴)。主人はこの手風琴の奏者らしく、わたしにもう一度、弾いてくれないかと合図している。それでみんなで演奏できるようにと思い、もっていたノートに英語の歌詞をなぐり書きして、アンジェラと嫁さんに歌をお願いする。

少年には笛を手渡された。

「いい、合図をしたら、この指だけ穴を塞いで、吹いて」。

少年は目をまるくした。そして、吹いてみた。

「ヒョー!」「ヒョー!」「ヒョー!」

なんと力のぬける音だ。それでも音がでるだけでみんな大喜びした。

 

iPODに中村あやさの演奏を動画でダウンロードしていたので、みんなに見てもらいメロディーを覚えてもらうことにした。

中村あやさのことを聞かれるので、彼女がロックバイオリニストであること、そして、日本ではストリートでも演奏していることを伝えた。彼女は頭を金髪にして左側頭部をプレデター(宇宙から襲来したリバイアサン)のようにしている。それで、アンジェラはパーフェクトプレデター頭にしている。

奥さんは日本ではその髪型が流行っているのかと聞く。

アンジャラは「ええ、3才のこどもから老人まで、みんなこの頭です」。口からでまかせを言いみんなを笑わせる。

 

 

「いくつ時が流れ過ぎても、人と人は愛し合う

同じ時を共に生きる この奇跡を大切にしよう」

 

「さりげなく過ぎ行く、大切な日々がある

きみのまわり見てごらん、いとしい傷もきっとある」

 

「遠く輝く、あの星たちはどうして、近くに見えるのに。一番近くにある睫、どうして誰にも見えないの」

 

アンジェラは歌いはじめると身体が自然に踊りだす。曲にあわせて身体をくねらせながら、腕でタイ舞踊のようにくねくねするのだが、その優雅さはさすがプロのコヨーテダンサー。笑ってはいけないと思いながら、笑わずにいられない。

下を向いて泣き笑いになってしまった。

 

 

その夜からカトマンズはマーシャルローが布告された。夜10時をまわると外出を禁止される。わたしはアンジェラを連れた食料と水がこの家族にも乏しいことがわかっていたので、配給品や穀物、果物、野菜を探しに行くことにした。

 翌朝、広場で大変な暴動が起こっていた。政府の対応に反撥した一般の民衆がネパール政府軍と衝突した。

 

軍部が救援活動ではなく、治安維持ばかりに眼を向けているのを一般民衆は震災発生直後から、不満をもっていたのだ。それに救援物資はいっこうに市民には回って来てないという。瓦礫をひっくり返し死体を収容するのも民衆ばかりで、政府は何もしてくれないというのが言い分だ。

亡くなったひとたちの遺体が広場の片側に1列に並べられ、そこだけぽっかりと空間が空いていた。身元がわかっているひとには親族が付き添っているが、ほとんどは身元がわからないひとたちだった。

すでに異臭が立ちのぼっている。

火葬にするにしても民間のひとたちは車さえないのだ。動くのは政府の車両と軍用トラックだけ。軍が動いてくれないと生活が前に進まないないのに、民衆が業を煮やして激しくなじっている。

戦闘的な男たちのひとりはカメラの前で軍を威嚇する。しかし、外国人のテレビクルーにはその彼が何を言っているのかわからない。ディレクターらしい人物は、カメラマンをひっぱり、英語がしゃべれる背が高い男のインタビューをはじめた。

 

「食料がないのだ。それに親戚が遠くにいるひとはそちらに移動したがっているのにバスが走らない。そして、見てくれ、亡くなって何日もたっているのに葬儀すらだしてあげれない。政府はいったい何をしているのだ。われわれだけではどうしようもない。これを見ているひとたち。是非、助けてほしい。子どもがいるんだ。みんな家族がいるのに、その生死すらわからないひとがここには大勢いる。それどころか、救援を頼みに村から3日かけて歩いて来た男は、家族を見殺しにしたといって自殺をはかった」。

あとでわかったのだが。その男は旅行者で、帰りの航空便がないのでカトマンズに足止めをくらっていた。みんなの気持ちをあたかも代表者のような顔をしてしゃべっただけだった。

 

男は30才ぐらいで、着の身着のまま、呼ばれればひとを助けに行くことだけを繰り返していたそうだ。そうした生活ももう限界に達し、集団ヒステリーを引起していた。

 

 

素数ノ謎 解明への航海   (第4章 Ⅹ億の夜と十億の星より)

この本のホームページ http://www.geocities.jp/reuterjapannews_1007/index.html

 

 

 

素数ノ謎 解明への大航海: 宇宙の暗号 (NGO japan cyber library)

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